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横浜地方裁判所 昭和53年(ワ)1627号 判決

原告

古郡直治

古郡孔文

右両名訴訟代理人

木村和夫

被告

木村久

相原幸治

右両名訴訟代理人

藤沢彰

参加人

有限会社藤木工務店

右代表者

藤木充良

右訴訟代理人

中村文也

立川正雄

主文

一  被告木村久は原告古郡直治に対し、別紙物件目録記載の各土地について横浜地方法務局大和出張所昭和五三年五月二二日受付第二六三九九号をもつてした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

二  被告相原幸治は原告古郡直治に対し、別紙物件目録記載の各土地について横浜地方法務局大和出張所昭和五三年六月八日受付第二九七二三号をもつてした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

三  被告木村久は原告古郡直治に対し、金一六六万五一七〇円及び内金六六万五一七〇円に対する昭和五三年六月一六日から、内金一〇〇万円に対する昭和五三年八月一五日から完済まで各年一割五分の割合による金員を支払え。

四  被告木村久は原告古郡孔文に対し、金一二〇〇万円及びこれに対する昭和五三年八月一五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告古郡直治の被告木村久に対するその余の請求を棄却する。

六  参加人の請求を棄却する。

七  訴訟費用中当事者参加に関する部分は参加人の負担とし、その余の部分は被告らの負担とする。

八  この判決は第三、第四項に限り、仮に執行することができる。

事実

Ⅰ当事者の求める裁判

第一  原告らの被告らに対する請求

一  請求の趣旨

1 主文第一、第二及び、第四及び第七項と同旨

2 被告木村久は原告古郡直治に対し、金二五〇万円及び内金一五〇万円に対する昭和五三年四月一日から、内金一〇〇万円に対する昭和五三年八月一五日から完済まで各年三割の割合による金員を支払え。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  参加人の原告ら及び被告らに対する請求

一  請求の趣旨

1 参加人と原告ら及び被告らとの間において、別紙物件目録記載の各土地が参加人の所有であることを確認する。

2 参加による訴訟費用は原告ら及び被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する原告ら及び被告らの答弁

1 原告ら

参加人の原告らに対する請求を棄却する。

参加による訴訟費用は参加人の負担とする。

2 被告ら

参加人の被告らに対する請求を認める。

Ⅱ当事者の主張〈以下、省略〉

理由

第一原告らの被告らに対する請求

一原告直治の被告らに対する所有権移転登記抹消登記手続請求について

1  本件各土地がもと原告直治の所有であつたこと及びこれらについて被告らのため本件各登記が経由されていることはいずれも当事者間に争いがない。

2  そこで抗弁1(原告直治の本件各土地所有権の喪失)について判断する。

(一) 〈証拠〉を総合すると次の事実を認めることができる。

(1) 原告直治は農業の傍ら昭和五〇年四月一日から幼稚園を経営し、原告孔文は原告直治の長男で右幼稚園の職員をしている者であるが、原告らは昭和五〇年夏頃自宅の土地建物に設定していた抵当権が実行されそうになつていた折柄、原告直治の知人の紹介で被告木村と知合い、同被告にその解決を依頼するようになつて以来、昭和五三年四月始め頃同被告と不和となるまでの間、原告直治所有土地に関する紛争の処理、その売却処分の代理、債権の取立、債務の整理、金員借入の斡旋等を委任していた。

被告木村は運送業、貸金業等を目的とする能登興業株式会社を主宰していたが、昭和四九年頃右会社が倒産したので、以後会社としての営業をしていない。

(2) 原告らは昭和五二年頃金員借入の必要を生じ、被告木村の斡旋で鴨志田栄(以下「栄」という)に湘南信用組合から金員を借入れてもらつて、これを同人から原告らが借受けることになつた。

栄は司法書士であるが、金融業等を目的とする鴨志田工務所の代表者鴨志田幸の夫で、同会社の実質的経営者である。

(3) 鴨志田工務所は昭和五二年二月二四日、湘南信用組合から金三七〇〇万円を借入れ、内金一〇〇〇万円を同組合に定期預金として預け入れ、残金二七〇〇万円(同年二月二四日金六〇〇万円、同月二五日金二一〇〇万円)を弁済期同年四月二四日、利息月二分と定めて原告らに貸渡した。

原告直治は右借受に際し、鴨志田工務所に対して本件各土地他三筆を譲渡担保に供し、登記済権利証、白紙委任状、印鑑証明書等所有権移転登記に必要な書類を預けた。また被告木村は同会社に対して連帯保証した。

なお右借受金のうち、金一二〇〇万円は後記のとおり、原告孔文の名義で杉浦に対し病院の運転資金として貸渡された。

(4) 原告らは同月二五日鴨志田工務所から貸付を受けた際金一〇八万円を利息として天引されたが(なお、後記のとおり、このほか原告らは被告木村に対して右金融斡旋の謝礼として金二一六万円を支払つた)、その後右借受金を弁済期日に返済できなかつたので、後記のとおり貸主から逐次弁済期日の延期を受けながら別紙債務弁済表のとおり昭和五三年三月二二日までの間に元本及び利息として合計金二八五八万円を支払つた。

(5) ところが、原告らは昭和五三年三月二二日鴨志田工務所に対し、被告木村に対して支払つた謝礼金二一六万円も天引額として計上し、利息制限法に従つて計算すると、もはや債務は支払済であるとして、以後の支払を拒絶した。

これに対して鴨志田工務所は原告らの右主張を認めず、元本金一〇〇〇万円が残存しているとして右金員及びこれに対する月五分の割合による遅延損害金を支払うよう求め、被告木村を介して、右金員でなければ受取らない旨を通告した。

そこで原告らは利息制限法に従い昭和五三年三月二二日現在で改めて計算した結果残元本は金八万四五三三円であるとして、同年四月四日鴨志田工務所宛に右金員の弁済供託をした。

(6) 被告木村は、栄の求めにより、昭和五三年六月八日被告相原から金一五〇〇万円を借受け、同月一五日鴨志田工務所に対し、連帯保証債務の履行として、残元金一〇〇〇万円及び遅延損害金一八〇万円として合計金一一八〇万円を支払つた。

被告木村は、右弁済に先立つ昭和五三年五月二二日、鴨志田工務所の了解を得て、本件各土地について同会社のためになされていた所有権移転登記について錯誤を理由に抹消登記を経た上、改めて原告直治から被告木村への代物弁済を原因とする所有権移転登記を経由し、ついで同年六月八日被告相原に対しこれを譲渡担保に提供し、その旨の所有権移転登記を経由した。

(7) 杉浦は相模外科病院を経営しているが、金七億円を超える債務を負担するに至り、昭和五一年一一月八日和議開始の申立をしたが、昭和五二年七月二二日右申立を取下げ、昭和五五年三月一五日債権者から破産宣告の申立を受けたので、同年六月一四日再度和議開始の申立をした。

原告直治は杉浦の債務のうち金二億円を超える額について連帯保証人や物上保証人になつていたが、杉浦が前記のように和議開始申立をするようになつたので、債権者から保証債務の履行を請求されるようになり、他方、杉浦から支払を受ける約束であつた月額金六〇万円の保証料が滞つていたので、昭和五二年一月被告木村に対し、右債務の整理、債権の取立等を委任した。一方、原告孔文は同年三月及び四月に杉浦に対して病院の運転資金として各金六〇〇万円合計金一二〇〇万円を貸渡したので、被告木村に対し、その回収方を委任した。

(8) 被告木村は右整理の方法及び原告らの債権確保の方法として、昭和五二年三月一日から昭和五三年四月頃までの間に、杉浦をして同人が受取るべき各種社会保険による診療報酬債権を原告孔文に譲渡させかつ同人をして被告木村にその代理受領を委任させるなどの手段をとつた上、これによつて受領した金員の一部を原告直治が保証している杉浦の債権者への弁済に当てて保証債務の軽減を図り、一部は杉浦へ交付し、一部は原告孔文への弁済に当て、或いは原告直治へ顧問料名下に保証料として支払い、自らも顧問料もしくは手数料の名目で受領した。しかし杉浦側の計算によれば、昭和五三年六月現在において被告木村による使途不明金として金二六六三万余円が計上された。

(9) 原告直治は昭和五三年四月頃被告木村と不和になり、同年六月五日には中井に対して、かねて原告直治が被告木村に預けていた同原告所有不動産に関する登記済権利証等の書類取戻交渉を委任した。

中井は昭和五三年一月末頃杉浦の債権者である株式会社ニッセイサービス(以下「ニッセイサービス」という)から相模外科病院に派遣され、事務局長の肩書で同年七月頃まで、債権債務整理のためとして対外的交渉を担当していた者であるが、原告直治の意を受けて同年六月五日同原告名をもつて、被告木村に対し同被告に対する原告直治の一切の委任を解除する旨及び原告直治が預けた不動産の関係書類の返還を請求する旨を通知した。

(10) 被告木村は同年六月一七日杉浦の債権者四宮の代理人と称する朴らから呼出され、西武新宿駅近くのプリンスホテルの一室で、同人ら及びニッセイサービス従業員の垂見行雄(以下「垂見」という)から同被告が杉浦から取得した金二六六三万円や原告直治から預かつた本件各土地を含む同原告所有地の関係書類の返還を強く要求され、相模外科病院、原告ら及びニッセイサービス宛に、右返還を約束する旨の念書(甲第一三、第一四号証)を作成した。そして被告木村は被告相原の承諾を得て同被告から本件各土地の登記済権利証、同被告の印鑑証明書、委任状等登記に必要な一切の書類の交付を受け、本件各土地についてはその所有権を原告直治に返還する意思で、同月二一日までに中井に対し右各書類と自らの印鑑証明書、委任状及び現金三六〇万六七九〇円、相模外科病院の社会保険診療報酬支払基金による供託通知書三通等を交付した。中井は翌二二日相模外科病院の二階応接間で、同病院事務長星屋、垂見、四宮の代理人増田及び原告直治の出席の下に、被告木村から受取つた本件各土地についての前記各書類(以下「本件権利証等」という)と前記金員及び供託通知書を呈示した。

(11) その際、増田は右金員及び供託通知書を同人が受取ることにより、四宮が当時所持した杉浦振出の総額金八〇〇〇万円の約束手形のうち金三〇〇〇万円相当の約束手形を杉浦に返還することを星屋に約束し、本件権利証等は、当時訴訟で係争中の金五〇〇〇万円の約束手形につき、判決もしくは杉浦に対する債権者集会(もつとも当時これを開催する具体的な企てはなかつた)等により権利の存否が確定されるまでの間、権利保全の趣旨でこれを預かりたいと述べ、他にこれを処分することはしないと確約したので、星屋と原告直治は一応これを了承した。

そこで、星屋及び原告直治は連名で中井宛に前記金員や本件権利証等を同人から受領した旨の受領書(乙第二八号証)を作成したが、右権利証等は増田がこれを持ち帰つた。

(12) 四宮は同月二九日付で杉浦から前記金員を含めて金一〇〇五万一九九六円の支払を受けるのと引換えに、杉浦振出の金額合計三〇〇〇万円相当の約束手形四通を杉浦に交付した。

(13) 増田は同月二九日付で本件各土地の権利証その他関係書類は債権者会議終結まで増田において保全し、処分しないことを確約する旨を記載した相模外科病院宛念書(甲第一五号証)を作成し、同病院へ送付した。

(14) 四宮は昭和五二年中東京地方裁判所に対し杉浦を被告として同人振出の前記金額合計三〇〇〇万円相当の約束手形四通及び金額五〇〇〇万円の約束手形につき手形訴訟を提起し、昭和五三年二月一〇日勝訴の手形判決を受け、これに対する杉浦の異議申立後の手続継続中金額三〇〇〇万円相当の手形四通につきその訴を取下げ、金額五〇〇〇万円の手形については同人主張の被詐取手形であることを内容とする悪意の抗弁が認められて、昭和五四年五月二五日四宮敗訴の判決(甲第一六号証)を受けたが、控訴の結果、昭和五五年一二月八日再び勝訴の判決(乙第三八号証)を受けた。

(15) 原告直治は昭和五三年六月三〇日本件各土地につき当時その登記名義人であつた被告相原を相手方として横浜地方裁判所においていわゆる処分禁止の仮処分決定を受け、即日その旨の登記簿記入がなされた。

(16) その後朴は増田から本件権利証等の交付を受けてこれを所持していたが、被告木村に依頼して本件各土地を売却することとし、右各書類を交付した。

被告木村は昭和五三年七月八日自己が売主となつて参加人に対し本件各土地を代金二一〇〇万円で売渡し、同月一二日被告相原から参加人に対する所有権移転登記を経由した。

(二) 以上の事実が認められ、右事実によれば、被告木村は、鴨志田工務所に対し連帯保証人として残債務を弁済したことにより、本件各土地につき同会社が有した譲渡担保権を代位により取得し、更にこれらの土地を被告相原に担保として提供したのであるが、被告相原の承諾の下に昭和五三年六月二一日原告直治代理人中井に本件各土地の権利証を被告らの各委任状、印鑑証明書等登記に必要な書類と共に交付したことにより本件各土地の所有権を原告直治に返還したのである(被告らが原告直治に本件各土地の所有権を返還したことは被告らの認めるところである)。即ち各被告はこれによつて被告ら間及び被告木村と原告直治間の各譲渡担保契約を順次合意解除したか、各担保権を放棄したものと解するのが相当である。従つて原告直治は本件各土地の所有権を回復したのであり、被告らはそれぞれ同原告に対し各被告名義の所有権移転登記の抹消登記手続をなす義務を負うに至つたものというべきである。

(三) ところで、前記認定の事実によれば、原告直治は昭和五三年六月二二日被告から(被告相原については被告木村を介して)受領した前記権利証等を四宮代理人増田に交付したのであるが、これをいかに理解すべきかについて考えてみる。

被告ら及び参加人は、原告直治は四宮に対して四宮の杉浦に対する約束手形債権金二〇〇〇万円の代物弁済として、もしくは、同じく約束手形債権金五〇〇〇万円の譲渡担保として、本件各土地の所有権を移転したものであると主張する。

そして証人朴は、増田からの伝聞として前者の主張に副う証言をするが、これは証人中井及び同星屋の各証言に照らして採用できない。

他方、原告直治が本件権利証等を増田に交付したことにつき、証人中井は、相模外科病院の再建まで一時預けたものであり、所有権移転の話はなかつたと供述し、証人星屋は、係争中の金五〇〇〇万円の手形債権について結論が出るまで預けたものであり、所有権移転とか売却処分による右債権の清算とかは話題にならなかつたと供述する。

証人中井の右供述の趣旨は必ずしも明確でないが、前記のとおり、当時四宮が所持した杉浦振出の総金額八〇〇〇万円相当の約束手形については、杉浦はこれを斉藤正明に詐取されたもので支払義務を負わないと主張し、四宮はその真正な権利者であると主張して東京地方裁判所において係争中であり、杉浦としてもこれを支払うべきか否か明確な態度をとりかねていたこと、原告直治も当時杉浦のため金二億円を超える連帯保証もしくは物上保証による責任を負つてその処理に腐心しており、従前関係がなかつた四宮のため新たに担保責任を負担する特別の理由がなかつたこと、増田は昭和五三年六月二九日相模外科病院に対し、本件権利証等は債権者会議終結まで増田において保全し、処分しないことを確約する旨の念書を差入れていること等の事実を考え合わせると、本件権利証等が原告直治から増田に交付されたのは、証人星屋が供述するように、係争中の訴訟の結着がつくまでの間一時的に預けたに止まり、本件各土地の処分については将来改めて協議の上決定する趣旨であつたと認めるのが相当であり、原告直治が本件各土地を杉浦の四宮に対する手形債務のため代物弁済或いは譲渡担保に供した趣旨と認めることはできない。しかして、その後本件各土地は四宮の依頼に基づき被告木村によつて参加人に売却されたのであるが、これにつき原告直治が承諾を与えたことを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、本件各土地の所有権は依然として原告直治に帰属するものであり、四宮及び参加人に移転したことはないものとしなければならない。

3  抗弁1は採用できず、原告直治の本件各土地に対する所有権移転登記抹消登記手続の請求は理由があるからこれを認容すべきである。

二原告直治の被告木村に対する貸金請求及び原告孔文の被告木村に対する寄託金返還請求について

1  請求原因事実2・(一)・(1)ないし(3)の各貸付日、金額及び同(二)はいずれも当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、請求原因事実2・(一)・(1)ないし(3)の各貸金の弁済期の約定が原告ら主張のとおりであることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

また右各証拠によれば、(1)の貸金について利息を月三分とする旨の約定がなされたことが認められ、(2)・(3)の貸金については明示の約定はされなかつたが、黙示的に同旨の約定がなされたものと推認することができる。ところで右約定利率は利息制限法所定の利率を超過するものであるから、同所定範囲内(年一割五分)に制限されなければならない。次に遅延損害金については特別の約定がなされたことを認めるに足りる証拠がないから利息と同一利率でこれを認めるべきである。

従つて、原告直治は被告木村に対し貸金債権として金二五〇万円及び内金一五〇万円に対する昭和五三年四月一日から、内金一〇〇万円に対する同年八月一五日から各完済まで年一割五分の割合による遅延損害金の支払請求権を有することになる。

2  同3は当事者間に争いがない。

3  そこで相殺の抗弁について判断する。

(一) まず同2・(一)について

(1) 同2・(一)のうち(1)・(2)はいずれも当事者間に争いがなく、(3)は前記一・2・(一)・(6)のとおりこれを認めることができる。

(2) 同2・(一)のうち(4)について判断する。

原告らが鴨志田工務所に対し別紙債務弁済表のとおり支払つたこと、同表(1)の金一〇八万円は借入れに際して天引されたものであること、(3)のうちの金二〇〇万円、(5)及び(11)は元本の弁済として支払つたことは当事者間に争いがない。

原告らは借入に際して同表(1)の金一〇八万円のほか金二一六万円が鴨志田工務所に対する支払として天引されたと主張し、原告孔文はこれに副う供述をするが、〈証拠〉に照らしてにわかに信用できず、かえつてこれらの証拠によれば、右金員は鴨志田工務所からの金員借入につき被告木村の斡旋に対する謝礼として同被告に支払われたものであることが認められる。

しかして〈証拠〉によれば、原告らは弁済期日の昭和五二年四月二四日に金二七〇〇万円を返済できないので同月二三日に鴨志田工務所から右弁済期日を同年五月二四日まで延期することの承認を得、月五分の割合による利息を前払することを約し、前記のとおり同年五月四日利息として金一三五万円を支払つたこと、次いで同月二五日元本内入として金二〇〇万円を支払い、残金二五〇〇万円の弁済期日を同年六月二四日まで一か月延期することの承認を得、月利五分の割合による利息として金一二五万円を前払し、以後このようにして弁済期日は一か月ないし二か月宛延期され、その間前記のように元本の内入弁済及び一か月分宛の利息の前払(債務弁済表記載の(15)の支払を除く)がなされたことが認められる。被告らは、原告直治が支払期日の延期の都度支払つたのは遅延損害金の前払であると主張するが、乙第四四号証の二に「利息は一ケ月五分と致します」との記載に照らし、また、支払期日を延期した以上、新期日までに遅延損害金が発生する余地はないのみならず、遅延損害金の前払という観念はそれ自体矛盾であることに照らし、被告らの主張は失当である。

以上の事実に基づき、原告らが弁済のため支払つた金員につき、利息制限法に従い、制限利息超過部分を元本に充当するなどして計算すると、別紙計算表のとおり、昭和五三年四月四日現在の債務残元本は金八五万五四〇〇円であることが明らかである。

そして被告木村が昭和五三年六月一五日鴨志田工務所に対し連帯保証債務の履行として金一一八〇万円を支払つたことは前記のとおりであるが、右支払は利息制限法を超過した支払であるから、これを制限利率(年一割五分)の範囲内で計算すると、同年四月四日から同年六月一五日までの遅延損害金は金二万五六六二円であり(なお遅延損害金の利率は利息と同一利率でこれを認めるべきである)、これと前記残元本金八五万五四〇〇円との合計金八八万一〇六二円が被告木村において原告らに対して求償しうる金額となる。

(3) 被告木村が昭和五三年一二月一日の本件口頭弁論期日において右求償債権をもつて原告らの本訴貸金債権とその対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは当裁判所に顕著である。

(4) 右相殺の意思表示の結果、被告木村の求償債権金八八万一〇六二円と原告直治の被告木村に対する貸金債権のうち、元本金八三万四八三〇円及び金一五〇万円に対する昭和五三年四月一日から同年六月一五日まで年一割五分の割合による遅延損害金債権金四万六二三二円(合計金八八万一〇六二円)とが消滅した。

(二) 抗弁2・(二)について

(1) 被告木村が、昭和五〇年夏頃原告らと知合い、以後昭和五三年四月始め頃までの間原告直治の所有地に関する紛争の処理、その売渡の代理、債権の取立、債務の整理、金員借入の斡旋等の委任を受けてこれを処理してきたことは前記認定のとおりである。

もつとも、原告孔文及び被告木村の各本人尋問の結果によれば、被告木村と接触して直接これらの事務処理を委任したのは原告直治の長男である原告孔文であり、その是非をめぐつて時には親子の間で意見の相違をみたこともあつたが、原告直治も少なくとも事後的には被告木村による事務処理を承認していたことが認められる。

そして〈証拠〉によれば、被告木村がなす右委任事務の処理に対し、原告直治は不動産売却等の事務処理の結果現金を入手したときはそのうちの一部を報酬ないし手数料として支払うほか、昭和五二年四月以降は経費として毎月金五万円宛支払つてきたのであり、その金額は昭和五三年四月三日までに少なくとも金一三四五万余円に達したことが認められる。

(2) 次に同2・(二)・(2)について判断する(なお(2)の各事項について被告木村は相当額の報酬金の主張をしているが、この点についてはしばらく措く)。

(イ) 〈証拠〉によれば、(2)・(イ)の事実を認めることができ、反証はない。

(ロ) 同(2)・(ロ)のうち、原告らが井上・田嶋の行為により被害を受けたこと、被告木村が田嶋から金一七〇万円を受領したこと、同人が東京信用保証協会に金二二〇〇万円を弁済したこと、はいずれも当事者間に争いがない。その余の事実については、〈証拠〉により、これを認めることができ、反証はない。

(ハ) 同(2)・(ハ)のうち、原告直治が平井に土地を賃貸していたことは当事者間に争いがなく、その余の事実については、〈証拠〉によりこれを認めることができ、反証はない。

(ニ) 同(2)・(ニ)のうち、原告直治が砂田のために原告直治所有の土地を担保に供していたこと、これが後日解除されたことは当事者間に争いがなく、その余の事実は、〈証拠〉によりこれを認めることができ、反証はない。

(ホ) 同(2)・(ホ)のうち、原告孔文を権利者とする抵当権設定仮登記がなされていることは当事者間に争いがなく、その余の事実は、〈証拠〉によりこれを認めることができ、反証はない。

(ヘ) 同(2)・(ヘ)のうち、原告直治に所有権移転の本登記がなされていることは当事者間に争いがなく、その余の事実は、〈証拠〉によりこれを認めることができ、反証はない。

(ト) 同(2)・(ト)のうち、原告直治の土地建物について昭和五一年秋頃東京相互銀行から抵当権実行による競売申立を受けたことは当事者間に争いがなく、その余の事実は〈証拠〉によりこれを認めることができ、反証はない。

(チ) 同(2)・(チ)のうち、原告直治が杉浦のために連帯保証人・物上保証人となつていたこと、原告孔文が杉浦から各種診療報酬債権の譲渡を受けたこと、被告木村が受領した金員の中から一部債権者及び原告直治に支払をしたことはいずれも当事者に争いがなく、その余の事実は〈証拠〉によりこれを認めることができ、反証はない。

(リ) 同(2)・(リ)は明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

(3)(Ⅰ)  ところで、原告らは、原告らの債権債務の整理等に関する原告らと被告木村との間の右委任契約が弁護士法第七二条に違反し無効である旨主張するので考えてみる。

(Ⅱ)  弁護士法第七二条は、「弁護士でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他法律事務を取り扱い、又はこれの周旋をすることを業とすることができない。」旨規定し、これに違反する事項を目的とする契約は民法第九〇条に照らして無効である(最高裁判所昭和三八年六月一三日判決・民集一七巻五号七四四頁参照)。

そして右規定にいわゆる「訴訟事件」とは必ずしも現在訴訟が裁判所に係属していることを要せず、その前段階であつても将来訴訟となるような争訟性を帯びた事案を含み、「非訟事件」とは非訟事件手続法所定の民事・商事各非訟事件のほか裁判所の権限に属する競売事件、不動産登記事件、戸籍事件等の実質的意義における非訟事件を含み、「その他一般の法律事件」とは、同条例示の事件以外の、法律上の権利義務に関し争いがあり若しくは権利義務に関し疑義があり又は新たな権利義務を発生させる案件を指し、また右規定にいわゆる「その他の法律事務」とは、広く法律上の効果を発生、変更する事項の処理を指すものと解するのが相当である。

(Ⅲ)  そこで、右条項に照らして被告木村のなした前記各行為について考えるのに、元旦ビューティ株式会社代表取締役舟木元旦に対する建物立退の交渉及びその実現、原告直治所有地の地目を畑から宅地への転用並びに地目変更登記手続(抗弁2・(二)の(2)・(イ))、原告直治所有地を田嶋光三が勝手に自己名義へ所有権移転登記をした上、東京信用保証協会のため同地に根抵当権を設定したことに対し、田嶋と交渉し、示談金として金一七〇万円を受領し、さらに同人所有のマンションを売却させてその金員で担保権者に弁済をさせた行為(同(ロ))、原告直治所有地の賃借人平井精一郎に対する立退交渉及びその売却行為、土地の畑から宅地への転用並びに地目変更登記手続(同(ハ))、原告直治が物上保証している砂田政美に対して交渉し、債権者への弁済資金を用意させ、債務を弁済させた上、原告直治の負担する抵当権設定登記を抹消させた行為(同(ニ))、前記田嶋光三と共謀した井上英雄に対し、原告直治が将来取得することあるべき損害賠償請求権を担保するため、井上所有の土地・建物に原告孔文を権利者とする抵当権設定仮登記をさせた行為(同(ホ))、安田と交渉して、原告直治が安田満雄から買受けた土地につき経由していた所有権移転請求権仮登記の本登記をさせた行為(同(ヘ))、東京相互銀行と交渉し、原告直治の債務のうち、金一〇〇万円を減額させた行為(同(ト))、杉浦に対する原告直治の債権の取立(同(チ))、原告らの滞納国税の延納承認交渉(同(リ))はいずれも、他人の法律事件に関して法律事務を取り扱つたものということができる。

(Ⅳ)  そして被告木村が報酬を得る目的としていたことは本訴において報酬請求権を主張していること自体に照らして明らかであり、また、右各行為が昭和五一年一月頃から昭和五三年四月頃までの約二年三か月間に多数回にわたつて反復継続してなされており、かつ前記のとおり、被告木村は、原告直治所有地の売却実現の都度相当額の謝礼金を受領したほか昭和五二年四月以降は経費として毎月金五万円宛を受領していたこと等に照らし、前記各事務処理は単に知人のため好意的になされたものとはいえず業務性を帯びていたことを認めることができるのである。

(Ⅴ)  そうすると、被告木村がした前記各行為はすべて弁護士法第七二条に違反するものでありそれらを目的とした委任契約は無効と言わざるを得ない。

(Ⅵ)  右の点に関し、被告木村は、簡易、少額な事件は法律事件に該当しないとか、法律事件であつても当事者と一定の人的信頼関係にある者が本人から委任されて法律事件の処理にあたり対価を得ても、本人自身が処理にあたる場合と同視でき、弁護士法第七二条にはあたらないと主張するが、前記各行為は簡易・少額な事件でないことはもとより、前記のとおり、原告らのため単に好意的になされたのではなく、業務性を帯びていたのであるから、被告木村の右主張は到底採用できない。

(4) 結局、被告木村の抗弁2・(二)・(2)の報酬債権は発生しないものというほかないから、これに基づく相殺の主張は失当であつて採用できない。

4  以上の理由により、原告直治の被告木村に対する貸金返還請求は残金一六六万五一七〇円及び内金六六万五一七〇円に対する昭和五三年六月一六日から、内金一〇〇万円に対する昭和五三年八月一五日から完済まで年一割五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであるが、その余は失当としてこれを棄却すべきであり、原告孔文の被告木村に対する寄託金返還請求は理由があるからこれを認容すべきである。

第二参加人の原告ら及び被告らに対する請求について

第一の一で認定したとおり、本件各土地は原告直治によつて鴨志田工務所へ譲渡担保に供せられ、次いで被告木村による債務の代位弁済によつて譲渡担保権が同被告に移転し、更に被告相原に対して移転されたが、その後担保権消滅により本件各土地の所有権は被告らから原告直治に復帰したのである。そして、原告直治から四宮への所有権移転の事実はこれを認めることができない。

そうすると、参加人主張のように、参加人が昭和五三年七月八日被告木村もしくは四宮代理人朴らから本件各土地を買受けたとしても、その所有権を取得するに由ないものといわなければならない。

従つて、本件各土地の所有権の確認を求める参加人の請求は失当であつて、これを棄却すべきである。

第三結論

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(佐藤安弘 澁川滿 太田武聖)

物件目録〈省略〉

債務弁済表〈省略〉

計算表〈省略〉

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